住まい

昏睡状態になって一週間になる夫の枕元で、老いた妻は額の汗を拭く。
隣の舅の介護でビニールベッドに寝ている私には構わず、低い声で夫に話しかける。

こうした光景は珍しい事ではない。

あなたは働きすぎたのですよゆっくり休んで下さいな。
夫の脂ぎった額は深い皺を刻み、ハンカチのしたで皮膚が伸び縮みしているようにも見える。

あなたにはお休みが必要だったんですよ。
取引が大きくなって立ったままお食事を召し上がって、私はどうなることかと思っていました。
あなたはこうして倒れたけれど、私にとってはこれで良かったんですよ。

あなたが帰ってきてくださったように思えて、こうしてお世話ができる日があなたのおそばにいれる日が、また来るんじゃないかと思ってましたから。

夫の目にうっすらと浮かんだ涙をハンカチで拭う。
私の言うことが分かるんですね。

あなたはいつもお忙しかったけれど、私の言うことは聞いて下さいましたものね。
ゆっくりお休みになって、今はでも、また目覚めて下さいな。
お仕事のことではもう、うめきながら起きなくても結構です。

もう一度、お味噌汁の香りで一杯の台所に、新聞を読みながらいつものように座って下さいよ。

老老介護や終の棲家など、老後の問題はどんどん大きくなる一方で、早くから準備を進めている人もいる。
人生は突然終わることを考えると、準備というものも必要なのかもしれない。

»